☆ 1.譜読み(初心者のための) ☆

 「譜読み」というと、これから何カ月かの練習を開始しようとする前にあって、対象となる曲のあらましを理解するための行為を指し、 実際に演奏することを伴う場合が多い。つまり、最初の全体練習で曲全体を初見に近い形で「通し演奏」すること、その前に、  個人で、かつ初見で「ひとさらい」演奏してみることを指すわけである。
アマチュアオーケストラの場合、当然のことながら、最初から立派に弾けるはずはない。あちこちで崩壊し、 あるいは、置いてきぼりにされる演奏者が続出する。
譜読みを行う際、あるサイトでは「音符単位で読むのではなく、視覚的に読むべし」と書いているが、これは非常に重要である。 演奏者に求められているのは、確かに音符を実際の音として再現することではあるが、それにこだわりすぎると、 前へ進めないまま時間だけが過ぎていくことになる。「それは個人練習でカバーすべき問題」と片付けてしまうのは簡単だが、 多くの団員が仕事を持ちながら、趣味として取り組んでいる現状からすれば、それは無理がある。また、「譜読み」は、 むしろ音楽の流れをつかむことであって、個々の音符を追うことではないと思った方がよいであろう。
 ここでは、私自身の経験から、弦楽器の場合の、初見から最終的な本番までの「譜読み」の効率的な方法の一例を紹介することにする。

①準備
 まず、ミニスコア(総譜:指揮者が使う譜面と同様のもの)を購入するか、インターネットでダウンロードして印刷 (2ページがA4横サイズに収まるように)し、半分に折って製本する。
 また、配布されたパート譜を縮小コピー(2ページがA4横サイズに収まるように)するか、 インターネットでダウンロードし、これも半分に折って製本する。
 さらに、プロオーケストラ演奏の楽曲音楽ファイルを用意(CDから取り込むか、インターネットからダウンロード。MP3形式など。)し、 携帯音楽プレイヤー等に取りこんでおく。
 なお、あくまで、曲の流れを理解することが目的なので、実際の演奏に使用する版のスコアを入手できず、古い版であってもあまり問題はない。

②初見段階
 各段階に応じて、以下1)~4)のように、譜面を見ながら携帯音楽プレイヤー等で楽曲を聴き込む。 電車通勤の人は、朝夕の電車の中で行うと、毎日できるし、時間が非常に有効に使用できる。
1)スコアを「眺め」ながら楽曲を聞く。自分のパートを聞くというより、音楽全体を聞き、楽曲のおおまかな流れを追う。 どのパートが主旋律を奏でているのかに注目して聞くと、理解しやすい。慣れると、音符も追えるようになるし、伴奏部分にも注意が行くようになる。 (何度も聞いたことがあるような、よく知っている曲なら、これは省略可能である)
2)次に、自分のパート譜を「眺め」ながら、楽曲を聞き、自分の演奏のおおまかな流れをつかむ。慣れてくると、他のパートとの関連性が理解できる。
3)自分のパートのおおまかな流れがわかってきたら、ボウイング(まだこの段階では、正式なボウイングは決まっていないはずなので、 「自分だったら、こうするだろう」ボウイングをイメージする。)を意識しながら譜面を追う。この段階が一番の難関で、 ある程度、曲の流れやリズムに乗れるようになるまで続ける。実際に、ごく小さく右手を動かしながら、譜面を読むと更によい (電車の中でやるのはなかなか赤面ものだが、慣れてしまえば、周囲の人々は案外気にも留めていないのがわかるはずだ。)。 慣れると、ボウイングイメージだけでなく、音の強弱や、旋律の表情などもつかめるようになってくる。 (夢中になって乗り越してしまうことがあり得るので注意)
4)次に、左手の指の位置などをイメージしながら楽曲を聴き、譜面を追う。慣れれば、ボウイングをイメージしながら行うことが可能である。 この作業は、おおまかでよく、実際に楽器を持って音を出す準備運動ぐらいに考えればよい。
5)最後に、楽器を手にし、最初から最後まで、ゆっくりとしたテンポで演奏してみる。この段階になって初めて、 いわゆる一般的な「譜読み」に達するわけで、書籍やインターネットで、そのやり方がいろいろ紹介されているので参照されたい。 ただ、楽器を手にした練習は、アマチュアの場合、なかなか時間を多くとれないのが実情である。

③最初の合同練習~練習序盤
 楽曲全体の流れがなんとなく掴めていれば、最初の合同練習で「落ちる」場面が少なくなる。この時、個々の音符が弾けなくても、 「楽曲の流れに乗ることを最優先する」よう心がけることである。(ただし、弾くことを諦めることではないことに注意。)
 これ以降、練習序盤においても、②の3)~4)を継続する。
 また、迷子になりやすい箇所があれば、スコアを確認し、自分の演奏用パート譜に、目印となる他パートの動き (音程を無視した音符)を書き込んでおくのもよい。
 たとえ、個々の音符やパッセージが弾けない箇所があっても、曲の流れに乗ることができれば、演奏の楽しさが次第に増えていくはずである。

④練習中盤~練習終盤
 この段階においても、②の3)~4)を継続するが、指揮者から様々な要求が出ているであろうから、それを意識しながら譜読みを行う。 練習中盤には、ボウイングも、ほぼ固まっているはずであり、改めて縮小譜面に書き込まなくても、ボウイングがある程度頭に入っているであろう。 また、自分のパートが浮き出る部分や、逆に抑えるべき箇所なども意識する。
 聴き込むプロ演奏の音源は、できれば複数用意すると、楽曲に対する様々な解釈に接することができ、指揮者の多様な要求も理解できるようになる。 また、中盤以降になると、楽曲に対する「飽き」が出てくるが、別の解釈に接すると、新しい目で興味が復活する効果もある。

 以上、仕事などで日々多忙なアマチュアオーケストラの団員を念頭に、効率的な「譜読み」方法の一例を紹介したが、 楽器を持つ時間が多ければ多いほどよいのは言うまでもないことである。
(2014.11.26 iwabuchi)