☆ 5.ストバイ、セコバイ ☆

 ヴァイオリンのパートは2つに分かれている。ひとつは、主に主旋律を担うストバイ(1stヴァイオリン)、 もうひとつは、主に主旋律の補強や伴奏を担うセコバイ(2ndヴァイオリン)である。 もっとも、この区分は便宜上のもので、ロマン派以降の曲の場合には、2つのセクションは、 主旋律と補強・伴奏を交代で担うことが多く、役割の違いはあまりない。
 ストバイは主旋律を担うことが多い、と書いたが、実はだいぶセコバイの助けを借りていることが多い。 2つのセクションがオクターブ違う同じ旋律を弾くことが多くあるが、これば、高い音域だけでは音の厚みが薄いため、 セコバイの力を借りており、この場合、実質的には、むしろセコバイが主旋律を弾いていると言える。 ストバイが弾いている、と聴衆が誤解しているだけである。
 また、ストバイは、主旋律を担当しているという認識が強すぎるためか、曲全体の構成に対する理解が浅く、 リズム感もセコバイより認識が甘いという側面が出やすい。つまり、独走しやすい特質がある。 よく、譜読みはストバイの方が遥かに楽、と言われるが、それこそが、ストバイの意識の低さを露呈しているようなものだ。
 なお、演奏経験の浅い人は、セコバイを希望する場合が多い。これは、ストバイがハイポジションを弾くことが多いためである。 しかし、ハイポジションは慣れであって、必ずしも高い技術を要するわけではない。
 一方、セコバイの方は、自分が伴奏であるという意識が強すぎるためか、音色や旋律の美しさに気を使わない傾向が見受けられる。 リズムについても、はめ込むことにだけ気を使い、音色や旋律の美しさを際立たせるアゴーギクがあることを忘れてしまうのである。 特に、突然ファーストが裏に回り、セカンドが美しく主旋律を担って「歌う」場合など、普段の「いぶし銀」の意識のままでは台無しになってしまう。
 また、実はセコバイは、ヴァイオリンセクションの音色を決めていると言っても言い過ぎではない。 セコバイがしっかりした土台を築いていれば、ストバイが多少チャラチャラ浮わついていても曲全体の解釈は揺るがないが、 セコバイがしっかりしていないと曲全体の流れが淀み、大きく揺らぐ。 指輪でいえば、セコバイはプラチナリングに相当し、ストバイは、そこに載せられたダイヤとかの装飾品である。 仮に、プラチナではなく、タコ糸リングの上に載せられたダイヤを想像すれば、その惨めさが理解できるだろう。
 よく、ヴァイオリンセクションは、ストバイとセコバイを行ったり来たりして、両方を経験する方がよい、 と言われるのは、上記のような理由によるためである。ましてや、ストバイは高い技術を持った奏者が座る、 という認識は問題外であり、即座に改めるべき大きな誤りである。あるサイトで、 ヴァイオリンの先生から「あなたは、まだ元気がいいひよっ子ちゃんだからストバイを弾きなさい」と言われた、 という記事が載っていたが、その先生の認識の深さに敬服する。 もし、オーケストラのヴァイオリンセクションの水準を向上させたければ、定期的にストバイとセコバイのメンバー入れ替えをするべきであろう。

(2015. 7.14 iwabuchi)