チャイコフスキー:交響曲第5番 ホ短調 作品64
 チャイコフスキーの後期3大交響曲の中で、前後の2曲に比べ、荒削りな感情の極端な起伏が比較的少なく、 均整が取れていて、テーマも一貫性が強く感じられ、一般的な人気は最も高い曲です。この印象的なテーマは、 一般的に「運命の動機」と呼ばれています。
 チャイコフスキーは当初、この曲について当初「大げさに飾った色彩があり、 こしらえ物の不誠実な混ざりものがある」と語り、前作の第4番のほうが優れている、と悲観的でした。 しかし、演奏が重ねられ、聴衆の高い評価を得てゆくにつれ、この曲を次第に受け容れるようになったといいます。
 もうひとつ、この曲を特徴づけているのは、ほとんど全曲を貫く歩行的なリズムです。 それは時に憂鬱に、時に雄々しく、時に希望に満ちて輝かしく、ある時は淡々と、そしてまたある時は絶望的に、 常に変化しながら曲を常に前へ前へと推進させてゆく。 そう・・・これは、ひとりの人間、すなわち作曲者自身であり、同時に我々ひとりひとりであり、 すべての人間に共通している人生そのものをテーマにしているのだ、と気づくのです。  (20101116 Iwabuchi)