交響曲というジャンルについて
 ハイドンが確立した交響曲というジャンルにおいて、ソナタ形式という手法を抜きに語ることはできません。 音楽学においては、ソナタ形式は、呈示部 - 展開部 - 再現部 - 終結部という形をした作曲技法で、これもハイドンが確立しました。 ソナタ形式の音楽学的な解説はここでは省略しますし、音楽を鑑賞するうえでは知らなくてもよいことです。
 ただ、ソナタ形式が、ある種の「劇的要素」を形式の中に組み込んだものだということは覚えておく必要がありそうです。 それまでの形式は、速さや旋律を変えることによって変化をつけていましたが、ソナタ形式は、 ある特定の主題を変化させることによって、小説でいえば起承転結を行うようなものです。 これがもたらした意味は極めて大きなものです。 形式そのものの優れた性格の上に立って、はじめて、 モーツァルトは弓なりの緊張感を持った旋律や漂うようなそこはかとない旋律を乗せることができ、 ベートーヴェンは己の精神的要素を盛り込むことができたのです。
 交響曲は、このソナタ形式を、管弦楽という最も色彩豊かな楽器で奏でるものです。 歌劇などのような視覚的要素を盛り込んだものを除けば、まさに最強の音楽的表現手段と言えるでしょう。 その後、交響曲は必ずしもソナタ形式と強く結びついたものとはならなくなっていきましたが、 「劇的要素」を内包する形式感というものは、別の形で引き継がれ続けたと言えます。  20120410 Iwabuchi)