1999/12/23 原風景~ ラヴェル「スペイン狂詩曲 」

 

 僕にとっての原風景は、2つある。それが、現実の風景だったのか、それとも、いつの頃 かに想像されたものなのか、今では僕自身にも分からなくなってしまった。

 原風景とは、自分にとって重要な意味を持つ風景、とでも言ったらいいのだろうか。

 1つ目は、小学生の頃行った(と思われる)公園の風景だ。その公園は、僕の住まいから はかなり離れていて、バスで行かねばならない場所にあった(と、これも定かではない)。 その公園は、一方が崖の下に位置している。その崖の上にはアパートがある。ブランコ や滑り台、それに砂場などがある、ごくありきたりの公園の風景なのだが、その崖の存在 が非常に気になる。赤土を剥き出しにし、今にも崩れてしまいそうなその崖の上にアパー トがある、という不安定さ が非常に気になる。

 私が小学生の頃は、よくこうした赤土の崖が見られた(最近では、そうした崖にはコン クリートで土留めがされてしまっていることが多い)。同様に、これから何かに使われよ うとするために整地された、何もない赤土の空き地もたくさんあったように思う(こちら の方は、最近では、砂利がしかれていたり、雑草に覆われていたりするものの、かつて何 かが建っていた、と思わせる空き地が多い)。そんな空き地で、自転車の練習をしたり、 遊んだりしたものだ。

 あるいは、この赤土剥き出しの風景が、私のひとつの原風景なのかもしれない。

 2つ目は、海岸沿いの丘に行った(本当に行ったのかどうか、これも定かでない)ときの 風景だ。その丘は低い草に覆われていて、草の上に寝転んで空を見上げたり、180度、海の 眺望を手にすることができる。その爽快さが、この原風景の中には常に感じられる。

 さらに、その丘で寝転ぶ僕が振り向くと、丘の斜面に、まるで階段のように、段段にな って家が数件連なっているのだ。しかも、まるで物置小屋のような小さな家。僕がその家 に近づいても、まるで人の住んでいる気配が感じられないのに、洗濯物が干され、生活の 小道具類がき ちんと整頓されて並べられている。さっきまで僕が歩いてきた道ともつなが っていない、まるで世界から隔絶されているかのような家々…。一体どうして、この風景 が目に浮かぶのか…。

 この風景は、特に最近頻繁に胸に浮かんでくる。場所も、何となく覚えているので、近々 行ってみようと思っている。

 この曲の前半部分の、神秘的で静寂に満ちた音楽は、この2つの原風景を呼び起こす。 原風景に再会すると、なにか、心がひんやりと冷やされる気がするのだが、この音楽もそ んな響きを持っている。


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