2000/ 2/15 手~ グリーグ「2つのメロディ」より『はじめての出会い 』

 手にしゃべらせることがある。

 気持ちだけが先走りしたり、どう表現してよいかわからなくなってしまうときは、手に 語ってもらうことがある。

 つなぎ合わされた手、髪や頬を撫でる手、抱き寄せる手、差し出す手、差し出された手 …。

 先日などは駅で、コートのポケットに、つなぎ合わされた手がもぐりこんでいるのを見 た。とても寒い日のことだった。

 腕を組むより、僕は手をつなぐほうが好きだ。

 気持ちが、近づこう近づこうとしている二人の手が合わさると、それまでの緊張が、ふ っ、と消えてしまうこともある。手が合わさった瞬間に、すうっと何かが流れ込み、そし て流れ出して行く。音楽に身を任せたときのような、吸い寄せられるような感覚…。

 また、手が合わさって、親しみが瞬間的に増すと、人は普段着になってしまうものだ。 ほっとすると同時に、安心感が広 がり、飾りが消えてしまうのだ。

 日本には、あまり握手をするという習慣がない。お辞儀をしたり、うなずいたりする方 が多い(その場合には、目や顔の表情が語りの役を務めることが多い)。

 しかし、握手をするという行為には、人々を瞬間的に近づける計り知れない力があるよ うな気がする。一般的に握手がなされていない日本では、なおさら、その行為は新鮮だ。 初めて会った人には、進んで握手を求めてみよう。

 この曲は北国の牧歌的な世界を、民族的な響きで伝えているという。が、僕には、手を つないだときに、相手の心が流れ込んでくる、その時の、かすかな切なさと、世界がぐい ぐい大きくなって行くような感覚に似ているような気がするのだ。


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