2023/11/27 暖をとる~ 武満 徹「Signals from Heaven 」

 

 暖をとるという言葉がある。それは単に温もりを受け取るということではない。

 

 どっしりとした胡坐(あぐら)のような下部の上にやや細身の筒が載っているストーブ。さらに、その天辺(てっぺん)には透明な耐熱ガラスポットが乗っていて、中ではふつふつと熱湯が沸いているのが目に映る。そこは、昭和の香りを残したガラスの引き戸がある部屋であるかもしれないし、モダンな家具がすました顔で鎮座しているモノトーンの部屋であるかもしれない。その空間の隠れた中心にあるのは、丸窓からのぞくオレンジ色をした炎。

 

 原始の人類を想い起す―――炎の揺らめき。

 

 「ダイオキシン」というものが一般的に知られ、問題とされるようになったのはいつからだったか・・・。今では、規制法もあり、焚火や焼き芋などはほとんど見ることができなくなった。ある世代以上の人々は、そこで暖をとっていたことを覚えているだろう。

 私もその一人である。

 

 古(いにしえ)の人類は「火」を発見し、それを利用することで、地上を制覇した。火を操ることは、人類以外の地球上のあらゆる生命体には未だに成し得ていない。

 

 近年、我が国ではキャンピングが空前のブームになっている。その爆発的きっかけとなったものは、コロナ禍であったかもしれないが、それ以前にも伏線はあった。キャンプファイヤーの炎のみを撮影した無編集の映像がYouTubeで話題となったのだ。そこには、炎の揺らぎと、不規則に発生するパチパチという音があり、精神的な癒しが再発見された。

 

 我々が炎と向き合い、暖をとるとき、我々は別のものと向き合っている。そして、その炎に映し出されるのは、欲望とは全く無縁のものである。我々は、ずっと炎と向き合ってきた。

 

 

 この曲は、「Day Signal」と「Night Signal」という2曲から構成されている金管ファンファーレである。私は、以前に、「私は彼の作品に人間の意志を感じない。存在すら感じない。」と記したが、この曲も同じである。


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