2000/ 1/ 4 海の香り~ ブラームス交響曲第2番
ブラームスは海の香りがする。
南国の海ではない、むしろ北方系の海だ。あるいはバルト海だろうか。ブラームスはこ
れを、スイスのウェルター湖畔などで書いたと言うが、僕にはどうしても湖を思い浮かべ ることができない。ましてやアルプスの田園などちっとも感じない。
たゆとう水面、そこから様々に反射する光。きっと、とても深いのだろうな、と思わせ
る、ゆらめく波長の長さ。この曲から感じられるのは、そんなような感覚であって、海そ のものではないのかもしれない(少なくとも、砂浜とか、岩ばかりの磯とか、そこに打ち 寄せる波とかいった ようなものを全く感じさせない。)。しかも、海の香りがする。
いや、むしろ、そんな海を見つつ、岸壁に座り、足をぶらんぶらんさせている人の姿―
――その人が海面を眺めている、瞳の中の風景であるような気がする。
海は生命の母と言われ、それは「抱擁」という意味に等しく使われているようにも思え
る。ところが、この曲から想起される海には、母性的な香りがしない。むしろ父親を感じ させる。
そう…肩に手をどっしりと置かれているような「ごっつい」感覚とでも言おうか。
そうなのだ、この曲から感じられるのは、海その ものではない。海に寄り添っている人 が感じている「父の香り」だろうか。
きっとこのような感じ方は、僕自身の記憶、育った環境などが影響しているのだろうと
思うが、それにしても、この曲の持つ、懐の深い、そして波長の長い、たゆとうような感 覚からは、海の香りがする。
いつもというわけではないが、ふと気が付くと傍にいた、というような父親の匂いとと
もに…。
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